キュレーションサイトのパクリ問題は出版界にも及ぶ。「無断転載パクリ本」の世界
(2017/02/05追記:この記事ではコンビニ売りの無断転載本は、今はもう無いかのような表現になってしまいましたが、「バカ画像」というタイトルは廃れ、現在は「変なLINEメッセージ」「テストの誤回答」などのタイトルでコンビニ本が売られています。結局は中身は「バカ画像本」と変わらず、ツイッターなどで出回ったネット画像の無断転載ばかりです。全ページが著作権無視、無断転載で成り立っている本が10年近くも、未だに販売され続けているということを念頭に置いてください。いくらエロ本の出版社とはいえ、出版社ですら著作権を完全無視って、いかがなものでしょうか。)
バカおばけです。
DeNAのキュレーションサイトパクリ記事問題で、次々とパクリサイトが槍玉にあげられていますが
記事や画像の無断転載・パクリ問題はネット界隈だけではなく、出版界にも及んでいます。
著作権について一番敏感でなければならない出版社が、ネットの画像を印刷しただけの本を売っているのです。
ことの発端は、2008年に鉄人社というエロ本出版社が自社の雑誌「裏モノJAPAN」にて連載していた「バカ画像コーナー」を単行本化した「バカ画像500連発!!」に始まります。
- 発売日: 2008
- メディア: ?
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やっつけ仕事としか言い様の無い代物ですが、
これが日本全国のコンビニで販売され、1冊500円という手軽さもあり、大ベストセラーとなってしまいます。
この杜撰極まりないとしか言い様の無い、著作権無視パクリ本が大ヒットした背景には、
出版された2008年当時はスマホが普及していなかったことがあげられます。
当時は既にパソコンでのインターネット全盛とはいえ、「インターネットする奴は気持ち悪いオタク」というイメージはまだまだ根強く残っており、まだスマホなどという言葉は普及する前で、世間の人々が日常で使うインターネット端末といえばガラケーのみでした。
ガラケーで閲覧できるサイトなんて、せいぜいショボいゲームができる「モバゲー」や「グリー」程度であり、ツイッターやフェイスブックが普及する前の時期なので
世間の人々はまだまだネットの流行を知らない人の方が多かったのです。
ネットに耐性がないぶん、このような「ネットで拾っただけの画像」が新鮮に見えてしまったのです。
主にインターネットなんか知らない田舎のヤンキーを中心に売れたとのことです。
もちろん、はてなや2ちゃんねるを日常的に見ていた人たちにとってはネットで頻繁に目にする画像ばかり掲載されたこの本に対し、「無断転載ではないのか」との疑いはかけられていましたが、権利を主張する人が不在のためにそこまで大きく炎上することはありませんでした。
しかし、この本が大ヒットしたのを切欠に、他のエロ本出版社も次々同じような「バカ画像本」を出版し、バカ画像本出版ラッシュが到来してしまいます。
コアマガジン、笠倉出版社、晋遊舎といった元々あまりモラルのない本ばかり出版していたエロ本屋さんが、次々と「バカ画像本」をコンビニに投下していきました。
ネットで拾った画像を印刷しただけの本なので、それぞれ違う出版社が出した本なのに内容が大きく重複しており、「やはり無断転載ではないのか」という疑惑が深まるばかりでした。
やっぱり違う出版社が出した本なのに同じ画像ばかり掲載されていては、買う方もいくらネットに無知とはいえ見飽きてしまいます。
笠倉出版社は「バカ画像」ではなく「バカウケ画像+α」という言い方を変えた本を出し、他社との差別化をはかります。
笑いの殿堂バカウケ画像500+α―誰でも笑えるオバカ画像 (SAKURA・MOOK 42)
- 出版社/メーカー: 笠倉出版社
- 発売日: 2008/03
- メディア: ムック
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「+α」の部分は、よくオヤジ向け週刊誌に載っている女子アナやアイドルなどの胸チラ・パンチラ写真のことでした。
最後のページにはおそらく盗撮マニアの画像掲示板から拾ってきたであろう、一般女性の盗撮写真が大量に掲載されており、著作権どころか一般女性の肖像権・プライバシーまで侵害する酷い本でした。
そんな中、同じような本ばかり出版されてマンネリ気味になってきたコンビニバカ画像本の世界に、更に毛色を変えて差別化をはかった本が登場します。大洋図書の「ねこタン」です。
- 作者: ねこタン編集部
- 出版社/メーカー: 大洋図書
- 発売日: 2008/03/28
- メディア: 単行本
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こちらもコンビニを中心に販売され大ヒット。しかし、ついにコンビニ画像本に大炎上を招いてしまいます。
「ねこタン」に掲載された画像はすべて「ふたばちゃんねる」の「ねこ板」に飼い主の方が自分の飼い猫の写真をアップロードしていたものであり、それを無断転載していたのです。
コンビニで売っていた猫本を見たら自分の飼い猫の写真が勝手に掲載されていた。
これに驚いた、ねこ板の飼い主の皆さんが一致団結。大洋図書に抗議をしましたが、
大洋図書は自社ページにお詫び文を掲載したのみ。そのお詫びもすぐ削除し、「ねこタン」も回収せず販売され続けたまま、うやむやになってしまいました。
ねこ画像の次は「サイコ画像」です。要は、ネットで「精神的ブラクラ」「検索してはいけない」と呼ばれる気味の悪い画像を呼ぶようです。
まずはじめにコアマガジンがサイコ画像と名付けてから各社もサイコ画像で統一したようです。
恐いサイコの画像―誰かに見せたくなる! (コアムックシリーズ 363)
- 出版社/メーカー: コアマガジン
- 発売日: 2008/06
- メディア: ムック
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画像に適当にでっちあげたキャプションをつけているのですが、適当にでっちあげたので画像の解説がワンパターンに。
気味の悪い絵画の説明に関しては、「殺人鬼が描いた絵」か「気が狂った人が自殺する前に描いた絵です。この絵を見ると呪われると言われています」のどちらかのみという酷い手抜きキャプションのオンパレード。(そもそも無断転載画像だけで本を作るというのが手抜きですが)
で、やっぱりやっていまいました。存命の画家の絵画を無断転載して、「気が狂った画家が自殺する前に描いた絵」だと。「この絵を見ると呪われる」と。
当然画家の方からのクレームにより、後に重版される際にはその画像のページは削除されました。
また、「バカ画像」に掲載された画像がそのまま「サイコ画像」にも掲載されるという杜撰さも見逃せません。
例えば着ぐるみを着た男が手錠をかけられ連行される写真。
「バカ画像」ではバカが大暴れして捕まった、「サイコ画像」ではこの格好で子供たちを何人も殺した殺人鬼というキャプションが。
いかに適当にでっちあげているかがわかります。つまり、どちらも嘘です。
そしてそして、、、ついに「行くとこまで行ったな」という究極の無断転載本が登場します。
メディアックス刊「超怖いサイコの動画100」です。
超怖いサイコの動画100―魂も凍る狂気映像全100編 (メディアックスムック 340)
- 出版社/メーカー: メディアックス
- 発売日: 2009/05
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ですので、DVDの画質は最悪。テレビの衝撃映像の番組の真似をしたかったのか、申し訳程度に下手糞なナレーションがついています。
本の中身はDVDに収録した動画の解説ですが、これまた適当。
YouTubeによくある、街中で喚く精神障害者の方を盗撮した映像もそのまま収録。サイコってこのことか!
みんな大好きレミ・ガイヤールのおもしろ動画も「怖い動画」としていくつも収録。みんなに迷惑かけて面白がってるのが「背筋がゾッとする」んだそうです。
最終的にはネタが無くなったのか、声優の釘宮の声が出るカーナビの商品説明の動画に「オタクというのはここまでオタク化しないと気がすまないのか。これはもはや特殊性癖である。日本のオタクの気持ち悪さに、背筋がゾッとする」とナレーションしていました。こんな無断転載本出すほうがゾッとするよ!
で、本の中では特別コーナーとして
いいとものテレフォンショッキングに客席の男が乱入した回などテレビの放送事故をキャプチャ画像付きで紹介するページがあるのですが、さすがにそのDVD収録は見送った模様。
でも
このゴキブリ風呂チャレンジの映像は、どう見ても海外のテレビ番組のものですが
DVDにそのまま収録されていますし、
この「大雪山に遭難した人が残した肉声テープ」なんて30年前のワイドショー(おそらくルックルックこんにちは)の映像ですが、そのままDVDに収録。
「焼身自殺した女性の死ぬ間際の肉声テープ」の映像もDVDに収録されていますが、これも30年前のワイドショーの映像。
訴えられたら即アウトな商品で、流石に危険すぎるので
これ以降YouTube無断転載DVDは出ることはなかったようです。他社も流石に真似はしませんでした。
それでもYouTubeの動画を無断転載しただけのDVDでいくら儲けたのでしょうか。
この無断転載画像本は、その後はサブカル有名人のDJ急行氏をイメージキャラに起用したもの、2ちゃんねる管理人のひろゆき氏をイメージキャラに起用したもの、最終的には講談社といった一流出版社ですら平気で出すなど、無断転載バカ画像本ブームもピークに達し、スマホが普及する2011年頃までコンビニで売られつづけましたが、
さすがにスマホが日本中に行き渡ると田舎のヤンキーもネットの画像を新鮮には見えなくなったようで最近はコンビニではこのような無断転載本は見なくなりました。
コンビニからは消えましたが、本屋には残ってしましました。
コンビニでエロ本出版社が1冊500円で売っていたものは飽きられましたが、
そこそこの出版社が1冊1000円以上で売っている無断転載本は今でも売られ続けているのです。
有名どころではフェイスブックにアップロードされた画像を印刷しただけの「笑ったらシェア」
- 作者: Share a lough
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/10/10
- メディア: 単行本
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ジワジワ来る○○(マルマル)?思わず二度見しちゃう面白画像集
- 作者: 片岡K
- 出版社/メーカー: アスペクト
- 発売日: 2011/07/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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とくにこの「ジワジワくる」に関してはかなり売れたらしく、シリーズ化してしまいましたし、なにより著者が放送作家で有名な片岡K氏です。
片岡氏はツイッターで無断転載本を出すのはいかがなものかと突っ込まれたことを受け、「うるせーバーカ」的なつぶやきも残し、悪質っぷりが酷いです。
https://togetter.com/li/373022
このシリーズで出た「ジワジワくる関西」
- 作者: 吉村智樹
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2014/11/22
- メディア: 単行本
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また、私バカおばけは20年来のVOWのファンであり、VOWには過去3回ほどネタが採用されたほど熱狂的なマニアであるのですが、
伝統のVOWこそ、こんな無断転載本なんかVOWシリーズで出さないでほしいと思っていましたが
ついにやってしまいました。
- 作者: ナポリタン石田
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2013/11/08
- メディア: 単行本
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著者のナポリタン石田氏が世界中を取材し、海外にあった「日本を勘違いしたモノ」を紹介するというコンセプトの本ですが、
中身はネットで適当に拾った画像のオンパレード。
どこに「世界中を歩きまわって自分で発見したネタ」があるのか教えてほしいくらいです。
無断転載画像を「自分が取材した」と言い張るのはかなり悪質ですし、
なによりVOWシリーズからこのような本が出るのもガッカリです。
- 作者: コリアラボ
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2014/02/15
- メディア: 単行本
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こちらもネット画像の無断転載のオンパレード。
韓国のパクリを言う前に、自分のパクリはどうなんだ、と。
やっぱり、独自のネタとネットから勝手に拾ってきた画像では面白さが断然に違うんですよ。
一目でわかっちゃうし、本当に冷めてしまいます。
もっと遡ると、私バカおばけは2003年頃にFLASHアニメが好きだったのですが
エロ本出版社が出していたパソコン雑誌(誌名失念)の付録CD-ROMにFLASHアニメ大量収録、とあったので買ってみたところ、
私の好きなFLASH作家の作品も収録されていたのに作者名・サイト紹介がなく、おかしいと思って作者の方に「雑誌の付録CDに収録されてますけど、知ってますか?」とメールしたところ
「まったく知りませんでしたが、私の作品が広まるのなら嬉しいです。クレームを出すつもりはありません」と返ってきたことがありました。
2000年代初頭から、既に酷い無断転載本は存在していました。
無断転載パクリ問題は、キュレーションサイト、バイラルメディアやまとめサイトだけの問題ではありません。
各出版社も、胸に手をあてて考え直さなければならない深い問題です。
以上です。